株式会社テクトム
より創造的で効率的な設計を支援する建築設計AIプラットフォームTektome
株式会社テクトム
代表取締役社長 北村 尚紀 氏
AI技術と建築設計のノウハウを組み合わせ、世界をリードする建築設計AIの構築を目指すテクトム。高い技術力を持つ同社は、順調に事業を拡大している。
テクトムの代表取締役社長 北村尚紀氏は、16歳からプログラミングを学び始め、17歳でエンジニアとして独立。その後、海外留学から帰国後にインキュビットを創業し、これまで計3社のスピンアウトやインキュベーションを行ってきた。1社目は内視鏡外科手術をAIで支援するスタートアップ、2社目のOXは、道路やトンネル点検の自動化を目的に撮影した写真から自動的に“ひび”を見つけて劣化診断する技術を持ち、OX自体はすでに大手上場企業へ事業譲渡した。そして、3社目のテクトムでは、AI×建築設計という領域に特化し、建築設計AIプラットフォーム「Tektome」を提供している。
今回、同社の製品概要や機能について、代表取締役社長の北村尚紀氏にお話を伺った。
テクトムの目指すビジョンとAIを用いたプラットフォーム
テクトムは、一級建築士やプロジェクトマネージャー、AIエンジニアなど、さまざまな分野の専門領域を持つ社員で構成される。現在、国内外の20ヵ国以上のメンバーで開発を行っており、海外の先進的な技術や最新情報のキャッチアップも早い。さらに、ロンドン支社も今年立ち上げ、グローバルな展開も加速させている。
「当社は、“建築設計に特化したCopilot AIの提供を通じて、現場の設計者が主導するデジタル変革を実現する”ことをミッションとし、設計者を中心とした方々が、いまより生産的かつ効率的な業務ができるとともに、AIを使用して、誰もがさらなる創造的な設計を行えることを目指しています」。こう語るのは、代表取締役社長 北村尚紀氏である。
そのビジョンの実現に向け、同社が提供しているのが、「Tektome Platform」だ。クラウドベースのプラットフォームで、建築プロジェクトに関わる多様な情報をAIが自動的に整理・蓄積し、良質な建築統合データベースを構築。そのデータベースを様々な設計業務に活用することで、同社の自動設計や自動検図などさまざまなアプリケーション上での活用を可能にする。
代表取締役社長 北村 尚紀 氏
「KnowledgeBuilder」「ReqManager」「SmartCheck」の3つが現状のラインナップだ。これらの組み合わせで、設計者が自ら必要なソリューションを生み出せるプラットフォームの実現に向けて、必要なモジュールを設計プロセス毎に特化して提供している。
「KnowledgeBuilder」は、BIMデータや写真、図面、書類などの統計的な処理が難しい非構造化データをAIで処理・解析し、様々なフォーマットのデータを構造化する。つまり、これらのデータをノウハウ化し、使われていなかったデータを活用できるように資産化する。
2つ目の「ReqManager」は、社内の要件、過去の事故や失敗事例、そして施主や設計に関する要件の一元管理を可能とするもの。AIが各要件を自動整理するため、法規・技術基準や要件、議事録など、プロジェクト関連文書から重要な情報を自動で抽出することが可能だ。
そして、3つ目は自動チェックの「SmartCheck」。前述のReqManagerでまとめた要件を元にAIがBIMデータなどを自動でチェックし、整合・品質チェックをしてくれる。
「この3つは上手く連携し、ナレッジの共有や品質の改善が可能となるソリューションです。個別でも使用できますが、連携して活用することでよりパワフルに効果を発揮します」と北村氏は語る。
ReqManagerの概要とメリットについて
「ReqManagerは、簡単に説明すると各種要件を一元管理できる製品です。ご存じのとおり、設計要件は、施主や関係者の要望、日々の会議の議事録をはじめ、社内の品質基準や手引き、法規、条例など多種多様です。そのため、設計者は書類や議事録など膨大な資料を読み込んで、要件整理を行いつつ頭の中で管理しているわけですが、その部分を当社のAIが支援するというものです」。
例えば、設計事務所の若手設計者が利用する場合、AIが各種書類を大量に読み込んで必要なときに見せてくれるため、経験が浅くてもプロジェクトの概要を素早く把握でき、品質も上げることが可能となる。一方、社内の法規チェック担当者などは、毎回出てくる同じような質問をAIが代わりに回答してくれるため、大幅にその手間が効率化できるという。もちろん熟練の設計者にとっても確認作業の効率化のほか、品質管理部などでも活用メリットは高いと言える。
「例えば、“自然排煙の算定基準と注意点を教えて”などと確認したい内容・要件を質問すると、AIが項目ごとの観点で要件を整理して表示し、要件をどのように満たせば良いかという具体的な回答一覧が出てきます。さらに、その要件に関する参照元まで表示してくれるのです。ライブラリに、都市計画法などをインポートすると、それも考慮してAIが答えてくれるようになるのも特長です」と北村氏は説明する。
また、「“ある設備のエネルギー効率規則について、まとめてください”とAIに質問すると、指定した資料から必要な情報を全部まとめてくれるようになります。法的なことや設置の可否などの結果、そして根拠も表示されるため、なぜ?という部分まで簡単に確認できるのです」。
近年、プロジェクトの関連書類の数は、年々増加する傾向にある。通常は時間と労力がかかり、さらに属人的になる点などが課題だが、ReqManagerにより効率化でき、プロジェクト全体での連携強化も図れて品質が向上できる。
もちろん履歴変更の管理も可能で、変更履歴の見える化のほか、ノウハウやナレッジデータが次のプロジェクトに活かせるのもポイントだ。
SmartCheckを用いるメリットと今後の展開
「SmartCheck」は、前述のReqManagerでまとめた内容をAIがBIMのデータや図面の品質チェックを行ってくれる。ユーザーは、直接AIと対話し、言語操作を通じてチェックプロセスを構築・自動化できる。「例えば、前述のReqManagerですでに自然排煙の要件がまとまっているとします。その上で、防煙区画は500㎡以内ごとに形成し、排煙口は区画内の各部まで水平距離30m以内の位置に設置、排煙口の有効開口面積は区画面積の1/50以上とする必要がある場合、SmartCheck を使えばAIがBIMデータを自動チェックして、BIMデータのOK箇所とNG箇所をレビューしてくれるのです」。
現在、建設業界ではBIMデータの活用が進んでいるが、そのモデルのレビューに工数や手間を要しているのが課題だった。AIによる自動チェックを組み合わせることで、設計段階での品質向上とレビュー工数の大幅削減を実現できるという。
「BIMの3Dデータのほかに、PDFや2D CADも自動チェック可能で、それらのデータを法規、条例、施主の要望、社内品質など幅広い観点で自動チェックします。また、文字と数字の整合性の確認、記号や凡例、寸法と配置、部材の干渉、品質デザインなど、あらゆる項目にも将来的には対応していきます」と北村氏。
設計者がBIMソフトで作成したモデルデータやIFCデータ、PDFなどをアップロードし自動チェックを実行すると、Tektome Platform上で帳票形式にて出力されるという流れだ。操作も非常に簡単で、誰もが活用できる。
さらに北村氏は、「多くの人により手軽にご利用いただくため、自然言語で指示を出せるソリューション開発も進めています。例えば、漏水対策として“電気室EPSと水使用室を隣接させない”という指示をすると、AIがBIMデータをチェックし、漏水の可能性のある場所と電気設備が備わる部屋をチェックする形です。AIを活用した品質チェックでどんどん便利にしていきたいです」と今後の展開を見据える。
このように、テクトムではデータベースの構造化や要件整理、品質チェックという部分でソリューションを現在提供しているが、今後はさらに多くの機能をTektome Platformに追加していく予定だという。
「将来的に、設計者の誰もがAIを用いて、さまざまなDXを実現できるようにしたいと考えています。例えば、設計者の方がAIに語り掛けるだけで、それぞれの目的に合ったシステムを自動で作れるところまで目指しています。我々にとって主役は、あくまでも設計者の方です。”Power to the Architects”をスローガンに掲げ、皆さまのお役に立てれば嬉しいです」と北村氏。より創造的な世界の実現をAIによって支援するテクトム。同社のビジョンと技術力に今後ますます期待が集まるだろう。
CORPORATE PROFILE
| 会社名 | 株式会社テクトム |
|---|---|
| 創業 | 2023年 |
| 事業内容 | 建築設計AIプラットフォーム「Tektome」の提供やAI技術の研究など |
| 本社 | 東京都渋谷区 |
| 代表者 | 代表取締役社長 北村 尚紀 |