事例レポート

東亜建設工業株式会社 アンドパッド

BIM支援サービスの導入による組織的なステップアップでBIMの新たな展開へ

東亜建設工業株式会社
建築本部 第二設計部長 井口 史子氏
建築本部 第二設計部 構造設計課 北澤 龍太郎氏
建築本部 第二設計部 構造設計課 西本 憲司 氏
建築本部 第一設計部 意匠設計課 井上 浩樹氏
建築本部 設備部 設備設計課 鈴木 彰馬氏

東亜建設工業は、海洋土木をはじめ、公共性の高い建設物や商業施設などの幅広いプロジェクトを手掛ける総合建設会社。建築・土木分野の新技術への取り組みにも積極的で、数年前からはBIMの導入を行い、業務での活用を行っている。
一方で、同社では部署ごとに個人がBIMソフトを扱っている状況でもあり、足並みを揃えたBIMの活用には至っていない面もあったという。
その同社が2024年6月から「ANDPAD BIMサービス」を活用し、アンドパッドの支援を受けながら、約1年で組織的なBIMの活用体制の構築に成功。大規模倉庫などの実案件でBIMを試用しながら、設計~施工まで一気通貫のBIMデータの活用に向け基盤を築いた。
今回、東亜建設工業 建築本部 第二設計部長 井口 史子氏をはじめ、北澤氏、井上氏、鈴木氏、西本氏の5名に、導入の背景から具体的な取り組み内容まで伺った。

属人化していたBIMを全社的に連携させる

東亜建設工業は、海洋土木工事を中心とした総合建設会社として、長年の実績を持つ企業である。近年は、社内や現場のDX化推進も加速。その一環としてBIMも導入しており、現在は本格的な活用に向けて注力している。
同社がBIMを導入したのは数年前に遡るが、当時から運用面での課題を抱えていたと建築本部 第二設計部長 井口 史子氏は振り返る。「設計部と工事支援部門では個別にBIMの利用を進めており、全社的な連携が取れていない状況でした。また、BIMの取り組みは属人的な面もあり、BIMデータの扱い方も統一されていないため、会社として確立された運用ルールや手法が存在しない状態だったのです」。

左から東亜建設工業株式会社 井上 浩樹氏、北澤 龍太郎氏、井口 史子氏、鈴木 彰馬氏、西本 憲司 氏

特に設計部では、業務の多忙さから以前はBIMデータの作成の遅れや、外注に頼らざるを得ない状況が続いていたという。「外注先からは納品データとして受け取るだけだったため、BIMデータを活用できる人材が社内で育たず、BIMに関するノウハウが蓄積されないという点に課題がありました」。井口氏は、なんとかBIMを有効に活用したいと考え、改善のきっかけを探っていた。
その中で転機が訪れたのは、2023年の末のことだ。工事支援部門からの紹介で、取り引きのあったアンドパッドとの対話が始まる。すでに建築・建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を工事支援部門では活用していたというが、「アンドパッドから補助金制度に関する説明とBIMのコンサルティングの提案があり、具体的で内容もよかったですし、ちょうど全社をあげたBIM推進の機運が高まってきたタイミングでもありました」と井口氏は語る。
その後、BIMの設計から施工フェーズにおける課題を整理し、顧客の状況に応じた最適なBIMの活用を支援する「ANDPAD BIMサービス」の導入が決定し、2024年6月からアンドパッドによる本格的な支援がスタートしたのである。

ANDPAD BIMサービス
実践重視の研修プログラムと実案件での並走支援

ANDPAD BIMサービスは、BIMの活用コンサルティングやANDPAD製品の活用提案に加え、顧客との共創による新機能開発までに踏み込み、具体的な課題解決の実現を目指すサービスである。
アンドパッドは当初、東亜建設工業でのBIMの導入が滞っている原因の調査やルール構築といった内容を提案。その上で、東亜建設工業側もさまざまな要因を検討したという。

お客様のBIMの課題や現状を分析し最適なご提案をいたします

「私たちは課題を分析し自覚していたので、より実践的な操作の講習に重点を置いてもらえるように要望しました」と井口氏。この要望を受け、約1年間にわたる実践的な研修プログラムが組まれた。研修はRevitを使用し、初期は基本操作を忘れないように週1回2時間程度の講習を5週間連続で集中的に実施し、その後は月1回程度のフォローアップを継続した。
BIMの経験者もいたが、これまでRevitを触ったことがなかったという北澤氏は、「自分にとって、2階建てのモデルで基本操作や初期設定を学べたことは非常に有益でした」。鈴木氏も「設備設計では、別の設備用BIMソフトを使用しているので、特に統合モデルについて講習を受けて理解が深まったのが良かったです」と振り返る。

Revitの講習会の様子

そして、特に注目すべきは、2つの実案件での支援である。最初の実案件は2階建て鉄骨造の教会施設で、建物全体をBIMで作成した。「申請図などでBIMモデルをどこまで活用できるかが不透明だったため、2D図面も並行して作成しましたが、クライアントに確認する際には3Dモデルが効果を発揮しました」と北澤氏。また「特に設備関連の納まりチェックでは、視覚的な確認ができ役立ちました」と鈴木氏もメリットを語る。
2つ目の案件は、4階建て約18万平米という大規模な倉庫のプロジェクトである。規模が巨大であるため、部分的なBIM活用を図った。担当した井上氏は、「主な活用法は、内外装の提案用のパースや3Dモデルを作成し、クライアントに完成イメージを提示することでした。これは高く評価され、BIMの営業面での価値を実感できました」。これらの案件は、実際の業務でBIMの価値を体感する、貴重な機会となったと5人は口を揃える。

専門知識を持つアンドパッドの担当者がBIMの活用を支援
BIM導入の効果を各自が実感し活用を推進

約1年間の取り組みを通じて、東亜建設工業では個人のスキルアップだけでなく、組織レベルでの変化が生まれたのも注目すべき点だ。西本氏は、「以前はBIMの利用者が不明点を質問できる相手がおらず、ハードルが高かったのですが、アンドパッドのサポート担当者は知識も豊富で、迅速に問題を解決してくれます」と語る。さらに西本氏は、BIMの活用を通じて部署同士の関係も変わったことを指摘。「モデルの重ね合わせによる干渉チェックなどを通じて、他部署の業務への理解が深まり、部署間の連携が向上したと感じています」。
一方で、課題も明確になったという。従業員間のBIMへの関心や習熟度に個人差があり、特に2D図面に慣れた従業員は3Dモデルから何を確認すべきか理解するのが難しいという問題が顕在化した。この課題に対し、役割に応じたBIMの習熟度目標を設定することを提案。各々の役職で必要なレベルまで、BIMを扱えることを目指す方針を明確にするなど、モチベーションの面でも工夫したという。
開始から2年目となる今年度は、東亜建設工業側のBIM経験者が講師のサポート役として参加し、社内での教育体制が強化されている。また、アンドパッドによる技術支援と並行して、さらに企画から生産設計までを管理する視点を養う「BIMマネージャー講習」も実施。業務テンプレートの作成も進めており、組織全体でのBIM活用標準化とボトムアップを推進している。

将来を見据えたロードマップもお客様の立場で検討

現在も新たな2件の実案件で、BIMに取り組んでおり、1件目は先にあげた大規模倉庫の2期工事分で、BIMモデルから2D図面を書き出すことを目指している。2件目は平屋の冷蔵倉庫で、防熱・防湿のための細かい納まりをBIMでつくり込み、施工へと繋げることを目標としている。
そして、「構造設計としては施工との連携をさらに考え、設計モデルから施工モデルへスムーズに移行したい」や「設計業務以外でも部材開発にBIMを活用するなど、多角的な利用を検討中です」など、さらなる高い目標を5人はそれぞれ掲げ、より高みを目指している状況だ。
東亜建設工業は今後BIMでのプロジェクト数を増やし、特に効率化が見込める大規模案件での活用を推進していく方針。アンドパッドとは3年先を見据えたロードマップも策定済みで、最終的には設計から施工、工程管理、維持管理まで、BIMデータを一気通貫で活用することを目指す。
東亜建設工業の事例は、属人的で分断されたBIM活用から、組織的で戦略的な運用への転換を示す好例と言える。その鍵となったのは、ANDPAD BIMサービスの支援による実践重視の研修プログラムと実案件での並走支援、そして段階的な目標設定だ。BIMデータを包括的に活用する将来像に向け、東亜建設工業は着実に歩みを進めている。

CORPORATE PROFILE

会社名 東亜建設工業株式会社
設立 1920年
本社 東京都新宿区
事業内容 建築工事の請負、海上土木、陸上土木、土地の造成・販売、建設コンサルタントなど
代表者 代表取締役社長 早川 毅