事例レポート

Tektome株式会社

いま建設業界で求められる3つの変革とその原動力、手法について

Tektome株式会社
代表取締役CEO 北村 尚紀 氏

東京とロンドンに拠点を構えるTektomeは、一級建築士やエンジニアなどの専門家で構成されるAI企業だ。代表取締役社長 北村尚紀氏が2023年に創業し、僅か数年で大手ゼネコンや建築設計事務所を中心に30社以上の顧客を抱えている(2026年10月現在)。
建設特化のエージェント知能基盤「Tektome」は、BIMやCAD、図面、帳票をネイティブに解析し、企業の知見を蓄積する「知能基盤」と、その知を引き出して業務を支援する「AIエージェント」を提供する。また、活用の定着に向けて、必要に応じて同社の専門家による伴走支援や人材育成も提供している。
今回、代表取締役CEOである北村尚紀氏に、建設業界で求められる3つの変革とその原動力などについて伺った。

建設業界に求められる3つの構造的変革

「私たちが建設業界の方々から相談を受ける中で、 “3つの構造的変革”が求められていると感じています。それらは“知見の継承と品質”、“BIM活用の拡張”、“大量の個別業務の効率化”というテーマです」。
北村氏は、これらはいずれも単なるツール導入ではなく、知見・設計情報・業務の進め方そのものに踏み込む変革が必要だと指摘する。一方で3つに共通する制約が「情報の爆発」だという。
「情報の爆発を分解して説明すると1つ目の制約は“知見とノウハウの爆発”です。建設業界では、ベテランが積み重ねてきた知見とノウハウが増え、若手などの受け手が吸収できる量を超えています。そして、2つ目が“設計情報の爆発”です。BIM活用の進展で、3Dを含む設計データも急増し、そのハンドリングも制約になっています。そして3つ目は、“業務改善の要望の爆発”です。業務改善の要望も多様化し、一人ひとり異なる課題を抱えています」。
つまり情報の量が増え、すべてに対して複雑性が増したことが変革の足枷になっているのである。一方で北村氏はこの制約に対してAIが新しい役割を担うのではと考える。「AIは複雑さを扱う新しい業務レイヤーになるということです。これらの“3つの爆発”に対してAIを噛ませていくと、その複雑さに私たちは対応できるようになるのです」。

Tektome株式会社
代表取締役CEO 北村 尚紀 氏
AIに対する解像度を上げることへの重要性

さて、AIというと一般的に単なる業務効率化ツールとして捉えられがちだ。北村氏は「AIに対する解像度を上げ、AIを既存業務の処理能力を拡張するレイヤーであると位置づけることがポイントです。AIは“ためる”“つなぐ”“つくる”という3つの作用を担えます」と語る。

その作用の1つ目が「知の蓄積装置としてのAI」だ。これまでノウハウはベテランの頭の中に暗黙知のまま留まり、下の世代に伝承されるのは一部だけで退職とともに消えてしまっていた。ここで、AIが知の蓄積装置としての役割を果たすことで、ノウハウの継承の流れが変わるのだ。「ベテランが口などで伝えていた情報をAIに学ばせます。例えば、朱書き図面や設計レビューの指摘、議事録、メールやチャット、不具合対応記録などです。これらをAIが構造化することで、判断基準や過去事例を活用できるようになります」。
2つ目は「情報の接着剤としてのAI」。膨大に散らばったデータを人手でつなぐことは難しい。そこでAIが情報を抽象化・紐づけすることで、新たな示唆を生み出す。「例えば点検スペースが社内指針の80mmを下回っています。着手まで12日あるので、今直せば図面の修正だけで済みます。もし直せないと120平米のやり直しになります、といった示唆です」。このようにAIが接着剤になることで、BIM一つにとっても“考える道具”として情報を扱えるようになるのである。
3つ目は「道具を作る道具としてのAI」である。建設業界の業務は細分化され、100人が100個の別々の業務を担うほど課題も多岐にわたる。そのため、従来のIT導入で効率化できる業務はごく一部だった。また要件定義から開発までは年単位で時間がかかるため、さらに数は絞られる。これが年々繰り返され、課題が解決しない状態が積み重なっていくと北村氏は分析する。
「AIはこのツール開発の期間と費用を劇的に変えます。これまで数年、数千万~数億円を要していたアプリ開発が数時間から数日に短縮され、経済的合理性を持って複数の業務改善を進められるようになるのです」。

原動力である人と組織を支えるTektome

北村氏はAIを最大限活用するための原動力は「人と組織」だと語り、これまでの人と組織のあり方を転換する重要な点を3つ挙げる。

「1つ目が“ボトムアップ”です。従来のような要望を吸い上げて中央集権的に企画し作って広げる方法よりも、現場主導への転換が真に定着するDXを実現します。2つ目は“代行から共創へ”で、例えばDX部門が代行するのではなく、当事者が自ら課題を見つけて解決できる環境を支援するという、共創の形に今後変わっていくと考えます。そして3つ目は“完成形から成長型へ”です。いわゆるアジャイル型と呼ばれる方法で、まずは小さく始めて育てていく形が重要です。これが早期にAIで効果を出すポイントになります」。
こうした3つの転換が進むことで、組織・データ・AIもともに育っていくと北村氏は考える。現場が自ら課題を改善することで、判断や工夫が組織に残る。日々の業務でデータも整い、AIも組織固有の仕事の進め方を学んでいく。こうした循環によって、個人に閉じていた経験や判断を組織で再利用し、品質を特定の人だけに依存させない状態へ近づけていく。

同社の建設特化のエージェント知能基盤「Tektome」は、前述の建設業界の課題に効果を発揮するが、大きく2つのレイヤーが存在する点が特長だという。
まず1層目が「AIエージェント」。いわゆるユーザーが画面越しに対話する部分だ。チャット形式になっており、対話を通して思考を繰り返して業務を代行してくれる。「普通のチャットボットと違い、より複雑かつ建設業務ができるようになっています。例えば図面・書類のチェックやBIM・図面審査、情報検索・読解、帳票やグラフなどの成果物作成も担います」。さらにアプリやモデルビューアなどのツール・システムも制作できる。
このエージェントのベースにある2層目の「知能基盤」。これが最も大事な点だと北村氏は強調する。「なぜならもしこの知能基盤がなければ、どの企業も世界中の人と同じAIを使っているだけになり、競争優位性が出ないからです。この知能基盤を自社のユニークなものとして育てていくことが、AIのカスタマイズになり、AIと新しいものを生み出す力になるのです」。

そしてTektomeは“マルチインテリジェンス”の実現へと繫がるという。「これは人の専門性とAIエージェントが知識と経験の生態系を共有するという形です。成功例を記憶し、各組織の仕事の進め方を理解し、そして深い専門性を組み合わせ、組織の知能が1つの生態系になったものです」と説明する。

同社が見据えるのは、一つの万能なAIではなく、法令調査やBIMモデルのレビューなど各分野の専門AIエージェントが企業の知見や情報を活用しながら協働する姿だ。「AIというと一つの存在を想像することが多いですが、我々が見据えているのは“マルチ”、つまり複合的なAIです」と北村氏。将来的に、人とAIが協働しながら、組織固有の知識や経験をともに育てていく世界をTektomeは見据えている。

CORPORATE PROFILE

会社名 Tektome株式会社
創業 2023年
本社 東京都渋谷区
事業内容 建設特化のエージェント知能基盤「Tektome」の提供やAI技術の研究など
代表者 代表取締役CEO 北村 尚紀