事例レポート

旭ビルウォール株式会社 ダッソー・システムズ

3DEXPERIENCE CATIAによる3Dベースのフローへの転換と自動化で難易度の高いファサードの製造を大幅に効率化

旭ビルウォール株式会社
プロポーザル本部フロントエンジニアリング部 ファサードエンジニア 淡路 広喜 氏

意匠性と難易度の高い建築外装(ファサード)を数多く手がけてきた旭ビルウォール。同社は、従来の3D CADによる自由曲面モデリングと2D図面作成の間に存在していた手作業による図面化·変換工数の増大という長年の課題を解決するため、ダッソー·システムズの3D CAD「3DEXPERIENCE CATIA」を本格導入した。
ルールの数値化とテンプレートの構築により、約2,000枚におよぶ製品図面の出力・自動更新をわずか2日間で実現。
従来は1日に数十枚が精一杯だった作業がなぜここまで変わったのか。設計を担う同社プロポーザル本部フロントエンジニアリング部の淡路広喜氏に、導入の背景と現場での実際と手応えを聞いた。

ファサード設計のプロセスで当たっていた「図面化」の壁

旭ビルウォールは難易度の高い外装に特化し、初期段階の設計支援からエンジニアリング、製造·施工までを一括して請け負う「特殊ファサードエンジニアリング企業」である。自社工場を持たず自由度の高い生産体制をとることで、オーダーメイドの多品種少量プロジェクトに柔軟に対応できる強みを持つ。実績は幅広く、複雑なガラス外装が印象的な東急プラザ原宿「ハラカド」、GRC(ガラス繊維補強コンクリート)を用い3次元曲面で構成された「麻布台ヒルズ」、立体的なアルミキャストを施した「資生堂銀座ビル」など、高い難易度の建築が名を連ねる。
これまで同社では、2DにAutoCAD、3DにRhinocerosとGrasshopperを標準ツールとして使用してきた。複雑な曲面形状を扱ううえではRhinocerosが適していたが、製造段階に進む際に3Dデータを工場で使える2Dの製品図へ変換するという部分で大きな課題があった。

旭ビルウォール株式会社
プロポーザル本部フロントエンジニアリング部 ファサードエンジニア 淡路 広喜 氏

同社でデジタル推進・3D設計の先端現場を牽引するプロポーザル本部フロントエンジニアリング部の淡路広喜氏は、次のように振り返る。
「RhinocerosやGrasshopperでも3Dから2Dへ変換するプログラムを組むことはできますが、プロジェクトごとに個別でプログラムを構築する必要があり、多大な時間が取られていました。3Dと2Dの強力な連携機能を備え、製造業で広く使われているハイエンドな3D CADを導入し、この工程を省略できないかと考えたのが、3DEXPERIENCE CATIAに着目したきっかけでした。CATIAはゲイリー・テクノロジーズが長年使用するソフトということは知っていて、曲面形状の検討や最適化に強いというイメージも導入の後押しとなりました」。
同社では、数年前に一度CATIAを試験導入した経緯があった。しかし当時は社内の3D運用体制が整っておらず、活用範囲も限定的であったという。その後、建築業界全体で3D/BIM活用の機運が高まり、同社内でも大きな構造変化が起きた。現在では全従業員約160名のうち、60名以上が日常的に3D CADを使いこなすまでに裾野が拡大。さらに、扱うプロジェクトのうち曲面形状や複雑な形状の割合が急速に増したことで、2024年より3DEXPERIENCE CATIAの本格導入がスタートした。

3DEXPERIENCE CATIA導入によるスピードと量の圧倒的な効果

3DEXPERIENCE CATIAの本格導入により、同社の設計フローは従来の「2D施工図から2D製品図を起こすフロー」から、「3Dモデルベースのフロー」へと転換を遂げることになる。まず設計ルールを数値化・パラメータ化し、そのルールに基づいたパラメトリックな3Dモデルを立ち上げ、そこから製品図を自動生成する仕組みへと切り替えたのである。
具体例として挙げられるのが、ある商業ビルの外装プロジェクトだ。このファサードは平面で見ると滑らかなスプライン曲線を描くアウトラインを持っており、その曲線に沿って約500本のアルミルーバーと1,000枚以上のパネルが千鳥状に配置される。鉄骨下地とスプライン状に配されるルーバーとの距離が変化するため、ルーバーを固定するファスナーの形状やビス穴の位置は1本ごとに微妙に異なってくる。さらに施工順序の都合から、パネル同士の接合部の納まりも複数パターン存在していた。
「従来であれば、このような1本1本形状が異なるパーツに対して、CADオペレーターが1枚ずつ2D製品図を手作業で描いていました。しかし今回は、まず『こういう条件の時はこの形状·接合方法を使う』という設計ルールを徹底的に定義し、3DEXPERIENCE CATIA上にパラメトリックなテンプレートモデルを構築しました」と淡路氏は説明する。
3DEXPERIENCE CATIAのテンプレートモデルには部材の長さや穴位置などのパラメータが付与されており、これらはすべて外部のExcelリストと双方向に連動する。設計変更が生じた場合はExcel上の数値を変更するだけで、CATIA内の3Dモデルが一括して更新され、それに連動して2Dの製品図も自動的に一括変更される仕組みを確立した。
結果として、約500本のルーバーと1000枚以上のパネルを含む、合計約2000枚の製品図を、わずか2日間で出力することに成功した。淡路氏は「手作業であれば1人が1日がかりでも数十枚が限度、修正でも1日100枚が精一杯でした。また、従来の人海戦術では、多大な人件費と修正ミスが発生するリスクもありました。3DEXPERIENCE CATIAによる自動化プロセスでは、変更要望が発生しても数値リストの修正と自動再計算で完了し、手戻り工数の削減効果も大きい」と評価する。

社内コミュニケーションの円滑化と「MODSIM」への手応え

3DEXPERIENCE CATIAの導入効果は、工数削減にとどまらない。設計ルールを明確なパラメータとしてExcelなどで可視化したことにより、設計者と施工図を読み込む製造·現場側の間でのコミュニケーションエラーが減少したという。「施工図をベースにやり取りしていると、設計の人間は理解していても、施工図を読む側には十分に伝わっていないということが起こりがちです。ルール化してパラメトリックなプロセスにすることで、そうした齟齬が減ったのではないかと思います」と淡路氏は語る。
同社では3DEXPERIENCE CATIAと同時にダッソー·システムズの構造解析ソフトウェア「Abaqus」も導入。複雑な曲面コンクリート躯体内の鉄筋配置をパラメトリックにモデリングし、形状変更に追従して即座に解析を回すという高度な連携に成功している。ダッソー·システムズが提唱する、モデリングとシミュレーションを融合し同時並行で進めるアプローチ「MODSIM (モドシム)」のコンセプトが、旭ビルウォールの先進的なファサード設計を支えつつある。
今後の展望として、同社はさらなるデジタルテクノロジーの活用を見据えている。淡路氏は「プロジェクトの特性に応じて、ソフトウェアも柔軟な使い分けを目指しています。また、共通データ環境(CDE)やBIMプラットフォームを活用し、より早い段階から3Dモデルを設計事務所やゼネコンと共有し、業界全体の手戻りを減らしていくことができればと考えています」と説明する。
「建築と一般的な製造業との最大の違いは、一品生産である点です。形状や設計がどんなに複雑化·個性的になっても、同じものを大量生産するのと同等の効率·コストで提供できる「マス・カスタマイゼーションの実現」が、私たちの最終的なゴールです。つくり手側の都合の制約でデザイナーやクライアントの自由な発想を妨げるのではなく、3DEXPERIENCE CATIAのようなデジタルテクノロジーを駆使して技術的な障壁を取り除き、依頼主の望む外装表現をそのまま実現していきたいと考えています」。
3DEXPERIENCE CATIAという製造業由来の強力な3Dツールを武器に、旭ビルウォールはファサードエンジニアリングの領域から、「マス・カスタマイゼーションの実現」へ邁進する。

同社がファサードエンジニアリングを担当した「麻布台ヒルズ」/設計:Heatherwick Studio

CORPORATE PROFILE

会社名 旭ビルウォール株式会社
設立 1990年2月
本社 東京都台東区
事業内容 GRC/GRG/FRP(繊維補強建材)の設計・施工・コンサルティング、ファサードエンジニアリング ほか
代表者 代表取締役 社長執行役員 近藤 悦生