株式会社テクノスター
造船分野で培ったクレーン吊り上げシミュレーション技術「Jupiter-BLS」を建設業界へ
株式会社テクノスター
執行役員 マーケティング部長 小林 陽介 氏
営業本部技術部 サブリーダー 船津 純一 氏
建設業界でのBIMやCIMデータの活用は、安全性確保と生産性向上などの点で注目を集めている。そうした中、製造業や造船分野で高度なCAE(Computer Aided Engineering)ソリューションを提供してきたテクノスターが、その技術を建築・インフラ施工分野へ展開しようとしている。
クレーン吊り上げ計画3次元シミュレーション「Jupiter-BLS」は、これまで熟練技術者の「勘と経験」に頼らざるを得なかった吊り上げ作業のリスクを事前に可視化し、安全かつ合理的な計画立案を支援する。
造船の現場で培われた現場密着型のDX思想はいかにして生まれたのか、そして建築・建設分野への展開の可能性はどのようなものか。
同社の執行役員 マーケティング部長 小林陽介氏と、営業本部技術部 サブリーダー 船津純一氏に、開発の背景や現場に根ざした思想、建設分野への想いなどを伺った。
熟練者の「勘と経験」を、見える技術へ
テクノスターは2002年の設立以来、自社開発の汎用CAEソリューション「Jupiter」を軸に、構造解析・熱流体解析・音響解析・電磁場解析など幅広い分野にわたってソフトウェアの開発・販売から技術サポート、OEM提供までを一貫して手がけている国内企業だ。同社の最大の強みはパッケージソフトを販売するだけでなく、顧客の現場に深く入り込んで課題を把握し、個別カスタマイズや専用システム構築まで対応する「現場密着型」の企業姿勢にある。
その代表例の1つが「Jupiter-BLS(Block Lifting Simulation System)」である。これは数十から数百トンにおよぶ船舶や海洋構造物の巨大なブロックをクレーンで吊り上げる際の計画立案を、PC上の3次元空間で検討するためのシミュレーションシステムだ。2011年、大手造船会社との共同開発プロジェクトとして、後のJupiter-BLSの原型となるシステムTSV-BLSの開発がスタートした。大型の鉄鋼ブロックをクレーンで吊り上げる作業は、吊り点やワイヤーの条件によって姿勢が変化し、場合によっては反転や落下といった重大事故に繋がる。
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株式会社テクノスター
執行役員 マーケティング部長
小林 陽介 氏 -
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営業本部技術部 サブリーダー
船津 純一 氏
本プロジェクトの立ち上げ時にPMを務めた小林氏は、造船所に足を運んで熟練技術者へのヒアリングを重ねた様子を振り返る。「当時はまだ若く、スーツ姿で実際の造船ヤードに通い詰めました。現場の熟練職人たちからは“きみが噂のスーパーコンピュータか”などと冗談を言われながらのスタートでした。現場の方々がどのような危険と隣り合わせで仕事をしているのかを聞いたことで、皆さんが納得して使えるかたちに落とし込めたと思います」。ヘルメットをかぶって巨大なブロックの間近に立ったときの命に関わる緊張感は、パソコンの前だけでは得られない実感だったという。
不安定挙動・干渉・応力を一貫して検証、補強検討まで対応
Jupiter-BLSが目指すのは、熟練技術者の判断を自動化することではない。「単に判断を自動化しようとしているわけではありません。技術者の検討と対応を支援するという位置づけで開発しました」と小林氏。また、もともと2次元図面で検討していた吊り上げ計画を、単純に3次元に置き換えたものでもないという。現場で長年繰り返されてきた試行錯誤を、そのままコンピュータ上で再現できる仕組みとすることにこだわった。足場や艤装品の積載による重心のずれなど、現場観察から得た気づきも、その都度機能として反映してきたという。
操作の流れは、対象物の3Dモデルを取り込み、構造解析に必要なメッシュと呼ばれる計算用モデルを作成するところから始まる。
これにより、吊り上げ時の重量・重心を計算して初期姿勢を設定し、クレーンや天秤(吊り荷の荷重を分散するための吊り具)など実務で使われる吊り具のライブラリを組み合わせてワイヤーを張る。天秤を使えば、上部は少ない本数のワイヤーで支え、下部は多数のワイヤーで吊るといった実際の吊り方も再現できる。ここまで設定すれば、各ワイヤーの張力をリアルタイムに計算しながら、吊り上げ時の姿勢変化をシミュレーションできる。
また、ブロック自体の局所的な変形や応力集中までも可視化できる。小林氏は、この効果を次のように語る。「どれほど吊り上げ姿勢が安定していても、構造物自体に応力が集中し、破壊の予兆が生じることがあります。Jupiter-BLSでは、応力分布をカラー表示することで目に見えない危険箇所を事前に特定できます。そして、リスクが分かった場所に、H形鋼などの補強材をモデル上に追加し、即座に再解析を行えるのです」。こうして構造解析と補強検討を繰り返すことで、
必要な補強量やワイヤー本数を合理的に検討できる。結果として、作業工数・材料コストの低減につながる。
ワイヤーや周辺の部材との干渉チェック機能も、現場の生産性を引き上げる機能の1つだ。時間軸に沿って干渉を自動検出して赤く表示する仕組みで、地上での過剰な取り付け作業や吊り方の見直しといった判断を、施工前に下せるようになる。
公開されている解体事故の映像を参考にした社内検証では、下部の切断に伴って重心位置が変化し、姿勢が不安定になる現象をシミュレーション上で確認したという。「事故を未然に防ぐだけでなく、手戻り工事や過剰な対策を抑え、必要なコストを適正化する。これはCAEを長年開発してきた当社が提供できる、デジタル検証の価値です」と小林氏は説明する。
造船から建築・土木へ、共通する課題を解決する
Jupiter-BLSは2011年の開発以来、日中韓の主要造船ヤードをはじめ、海外を含めると約50社に導入され、多くの現場で活用されてきた。土木分野にも、3次元地質シミュレーションソフトへJupiterの技術をOEM提供するなど、周辺分野への展開実績を積み重ねている。小林氏は「造船の重量物を安全に吊り上げるという課題は、建築や建設、プラントにも共通する部分が多いと思います」と語る。
船津純一氏は、自動車関連会社で電磁波解析CAEに従事した後にテクノスターへ入社し、個別カスタマイズをこなしてきた現場を知る技術者だ。船津氏は「船の巨大なブロックと橋梁などのインフラ構造物は、鋼構造物としての特徴が似通っています。Jupiter-BLSが持つコア機能は、そのまま橋梁施工やプラント建設の大型設備据付け、また大規模な鉄骨工事に適用可能です」と建設業界での活用例を語る。
建築・建設分野への展開にあたっては、造船とは異なる検討要素も想定される。「造船はヤードや設備があらかじめ決まっていますが、建築の場合は特定の場所にクレーンが来ます。クレーン自体の強度や風荷重、周辺状況に応じたアームの可動範囲など、建築分野特有の検討要素もあると考えています」と小林氏。既存のクレーン配置計画ソフトと機能が重なる部分もあるが、「Jupiter-BLSの最大の強みは、吊り上げ時の姿勢・挙動と構造物の強度を一体的に解析し、必要な補強対策までシームレスに検討できることです。この強みを軸に、建築業界ならではのニーズを真摯にヒアリングし、製品に反映してブラッシュアップしていきます」と船津氏は語る。
小林氏も「まずは私たちの技術を知っていただき、建設業界の皆さんが抱える課題や要望を聞かせていただきたいです。現場の知恵をシステムに反映し、日本の施工技術をより安全で高度なものにするお手伝いができればと考えています。まずは『このような検討はできないか』という段階から、ご相談いただければと思います」と語る。
製造・造船で培われた「見えないリスクの可視化」という発想が、建築・建設現場の安全性向上や施工計画の高度化に貢献していくことが注目される。
CORPORATE PROFILE
| 会社名 | 株式会社テクノスター |
|---|---|
| 設立 | 2002年 |
| 本社 | 東京都港区 |
| 事業内容 | CAEソフトウェアJupiter-Solutionsなどの開発・技術サポート、カスタマイズ/OEM、エンジニアリングサービス及びコンサルティング |
| 代表者 | 代表取締役社長 岡森 克高 |