事例レポート

ダッソー・システムズ株式会社

建設バーチャル・ツインで次世代のビジネスモデルを構築するブイグ・コンストラクション

ダッソー・システムズ株式会社
建設・都市・地域開発業界 グローバル・インダストリー・マーケティング・ディレクター 森脇 明夫 氏

感染症の影響での部材調達のリスク・価格高騰、安全管理要求などに加え、気候変動に対応するための脱炭素や建築物の再利用の要求など建設業界の取り組むべき課題は複雑さを増している。フランスの大手ゼネラルコントラクターグループであるブイグ・コンストラクションはダッソー・システムズと戦略的提携を発表し、ルネッサンスといえるほど大きな建設業のデジタル変革を加速させている。

ブイグ・コンストラクションは、60を越える国々に5万8000人の信頼できる献身的な従業員を擁し、建築、土木、エネルギー、サービスの各セクターにおいてプロジェクトの設計、建設、運用を手掛ける企業だ。持続可能な建設をリードする同グループは、イノベーションの共有を重要な付加価値と捉え、健康と安全を最優先することを保証している。2030年までに温室効果ガス排出量を30%削減することを約束し、低炭素化を実現する多様なソリューションをお客様に提供している。ダッソー・システムズとブイグ・コンストラクションは2021年4月28日に2度目の戦略的提携を発表した。

ダッソー・システムズ副会長兼CEO ベルナール・シャーレス 氏(右)ブイグ・コンストラクション CEO フィリップ・ボナーブ 氏(左)の提携発表

戦略的提携の3年間の更新によりクラウドベースでモバイル対応した協業・協働型環境を確立し、柔軟性の高いモジュール式の設計・製造・施工のアプローチの研究開発を加速し、施工現場のデジタル環境への関与を高め、業界の断片化されたエコシステムの再構築とその持続可能性の課題に対処する。

最初の課題は3Dによる見える化にとどまらず、シミュレーション、施工の工程および各シナリオの検証、保守管理などが可能なデジタルツインをさらに進化させたバーチャル・ツインを建設業に適用するということである。エコシステムの統合は重要だ。例えば、窓を設置する場合、窓の担当、シャッターの担当、電気、外壁の担当など複数の専門会社が関わるが、エネルギーに関する新しい規制が導入された時、漏電のテストが必要になった。しかし、関係者間の責任が不明確で迅速に対応するのが困難だった。このような漏電のリスクを回避するために、電気シャッターと窓を一緒に梱包したり、フルシステムでの設置に移行しているケースもある。このように建設業界は新しいバリューチェーンの構築が必要になっている。

分断化されたエコシステムを改善するには幅広い関係者との協業が必要である。プロジェクトごとに変わる関係者を繋ぐには運用が容易で導入しやすいクラウドベースの建設用バーチャル・ツインの導入が最適だ。関係会社の情報を含むプロジェクト情報のアクセス権を管理し集約することで、購買や調達も含めた総合的な生産性とサステイナビリティを向上することができる。ブイグ・コンストラクションではCEOから現場作業員まで、同じプラットフォーム上ですべてのプロジェクトの協業をしている。必要な情報が統合されたプラットフォームのおかげでプロジェクト管理を断片的なファイル単位の考え方からオブジェクトベースのシステムアプローチに移行できた。

建設用バーチャル・ツインの適応例として観光地で有名なフランスのラ・グランデ・モット (LA GRANDE MOTTE) のスマートライトプロジェクトを紹介する。外灯の大規模改修に際して、ブイグ・エナジーズ・アンド・サービシーズは専門工事会社と建設用バーチャル・ツインの街のモデルを構築し、部材の調達・管理、設置のスケジュール管理などをプラットフォームで行った。発注主である自治体のラ・グランデ・モット (LA GRANDE MOTTE) は工事の全体像が見えることで仕様要求の確認がしやすくなった。施工後はバーチャル・ツインとエネルギー使用料の管理システムとを連携することでエネルギー使用料の節約や保守・メンテンスの問題把握などにも繋げた。

ラ・グランデ・モットの外灯の設置状況をプラットフォームで確認

2つ目の課題は施工現場とデジタルをどのように繋いでいくかである。トヨタ生産方式などをベースに米国でリーンコンストラクションのラストプランナー・システムなどが確立し施工現場の改善手法は体系化されてきたが、デジタルプラットフォームと施工現場の連携が課題であった。ブイグ・コンストラクションでは施工現場に大モニターを設置し、従来紙で貼りだしていた図面や安全管理規則などの情報を3Dリーンと呼ばれるデジタル管理システム上に集約した。ダッソー・システムズのリーン生産方式の専門家が初期プロジェクトをリードしポストイットを貼る感覚でさまざまな課題をデジタルで貼りだしてもらい、数週間先までの施工の予定を確認し、不整合がないかをラストプランナー・システムの定義にもとづき定期的にチェック・アップデイトを行った。そのことで現場の施工管理が大きく改善した。例えば、保管場所の期限、届いた機材の置き場所など、日々変化する情報が集約されていった。この情報は設計・製造・施工シミュレーション情報などと同じプラットフォーム上にあるため建設用バーチャル・ツインに完全に統合されている。建設用バーチャル・ツインにはBIMのデータだけではなく、施工手順や部材配送などプロセスに関わるすべての情報が統合されている。いまでは、この仕組みなしで施工現場の運営できないようになってきている。

建設現場での3Dリーンの導入状況

3つ目の課題への対応として、プロジェクトのプロダクツ化というものがある。建設業界では熟練した施工作業員、配管・電気工事の担当者が減少傾向にあり、現場対応に頼るには限界が見えて来ている。また、プロジェクトが始まるたびに10%のコストが個別のエンジニアリングスタディに充てられている。そのため、効率と生産性を改善する新しい建築生産方式が求められているのだ。ブイグ・コンストラクションでは過去5年間のプロジェクトの分析を行った。設計・製造・施工と工程が進む中での可変要素を分析し、プロダクツラインというものを構築した。これはモデル・ベース・システム・エンジニアリングの技術により、インテリジェントなデザインテンプレートの組み合わせにより、設計・製造・施工までの建築プロセスを一品一様のプロジェクトという概念からプロダクツを作っていくという考え方にすることだ。この時に目に見える部分は設計者のスケッチなどの意思を尊重し、見えない部分はできるだけ標準化をしている。プロダクツラインにより現場で高度な施工技術が必要でなくなり施工の効率が改善している。現時点では福祉施設や学生寮などプロダクツラインが定義されて実施検証が進行中だ。プロダクツラインは施工効率だけではなく、コスト低減にも寄与している。

ブイグ・コンストラクションの進める建設のプロダクツ化、モジュール化、ユニット化できる部分はモデル・ベース・デザイン・エンジニアリングにより効率よく設計、製造検証と施工計画をしている

フランスでは脱炭素に向けて法規制が強化されていて、ブイグ・コンストラクションは新しい競争ルールの中での優位性の実現にも余念がない。CO2の排出量の少ない新しいコンクリート素材の検討、木材とコンクリートの混在したビル建築の検討、モジュール化することによる施工工程の短縮や人への依存度の軽減、解体後のリサイクルの検討など、従来の予算内、工期内に加え、脱炭素の社会でもサステイナブルに事業継続するための施策を行っている。

両社の活動が業界の在り方、そして、サステイナブルな社会の実現に向けて貢献するように、両社は引き続き協業を強化していく方針だ。

CORPORATE PROFILE

会社名 ダッソー・システムズ株式会社
設立 1994年
事業内容 ダッソー・システムズ社製PLMソリューションの日本 / アジアにおける販売・マーケティング ほか
本社 東京都品川区
代表者 代表取締役社長 フィリップ・ゴドブ