事例レポート

株式会社ホロラボ Epic Games Japan

ゲームエンジンを用いた効率的なデータ活用と美しいビジュアライゼーションで建築を支える

株式会社ホロラボ
AECチーム Project Manager 梁河 雄 氏
Data Specialist 豊田 健 氏
Project Manager、Data Visualization Specialist 森口 史章 氏

リアリティとバーチャルを自由自在に操る技術を独自に研究し、3DやAR/VR/MRなどに関するソリューションやシステムの開発を行っているホロラボ。同社は、AR/MR可視化ソリューション「mixpace」や、顧客仕様のアプリケーションの開発・支援を行うなど、その確かな技術力に定評のある企業だ。
今年1月、同社はAECチームを設立。ゼネコンや設計事務所での実務経験者など、建設に深い知見を持ったメンバーらが揃い、建設・建築業界により特化した開発&フォロー体制を構築した。
その中で、Epic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine」を専門に扱い課題解決を図るのが、Project Managerの梁河雄(やながわ たける)氏が率いる“ホロラボ UE(Unreal Engine)チーム”である。
今回、梁河氏をはじめ、開発の豊田健氏、ビジュアライズ担当の森口史章氏の3名に、同社の開発案件やその特長、Unreal Engineを使用するメリットなどをお伺いした。

建設業界のAR/MRに関する課題に幅広い技術で応えるホロラボ

「ホロラボはエンジニアファーストの会社で、開発者が持つスキルセットの幅がとにかく広いのが特長です。顧客の業種や業務を踏まえてHoloLensやiPadなどの使用も含めた3DやVRに関する相談に対して柔軟に対応できるという強みを持ち、その中で私たちUEチームは、Unreal Engineの専門的な知識と技術を用いて建設の顧客向けにソリューションの開発・支援を行っています」。そう語るのは、AECチームのProject Managerで、UEチームを率いる梁河雄氏である。

株式会社ホロラボ
Unreal Engineチーム 梁河 雄 氏(中央)、森口 史章 氏(左)、豊田 健 氏(右)

梁河氏は建築学科を卒業後、施工管理や模型製作の仕事に従事し、スーパーゼネコンのBIM推進部などを経て、ホロラボに入社した。
「10年程前にプライベートでVRを体験した際に、“これからは3DやVRの時代が来る”と直感的に確信しました。そして、自分でRevitやArchicad、3Dの関連技術を日々勉強し、BIMに関するスキルを習得したのです」。
現在、梁河氏は顧客と開発者を繋ぐホロラボのProject Managerの傍ら、自身の法人を持ち、さらに日本工学院専門学校では講師も務め、BIMのエキスパートとしてマルチに活躍する。
さて、そのような梁河氏の元には、ゼネコンや設計事務所から、さまざまな3DやVR、メタバースなどに関連した相談が持ち込まれるという。「最近ではUnreal Engine 5のリリースや映像美のインパクトからUnreal Engine指定でVRを作りたいというお話をおかげさまで多くいただきます。相談内容を紐解いて、顧客の求める最適な提案を行うのが私の仕事です。UEチームはPoC(概念実証)から運用フェーズまでを一貫してフォローします」と語る。
そこで、梁河氏は最近の代表的な開発例を紹介してくれた。それは、梓設計の子会社・梓総合研究所が開発を進める施設データプラットフォーム「AIR-Plate(特許出願中)」の案件である。AIR-Plateは、オープンなネットワーク型の施設管理のシステムで、特徴的な機能を有するSaaSやソフトウェアのストロングポイントを掛け合わせた、時代と共に進化するソリューションだ。
例えばビジュアライズは描画機能に特化したソフトを使い、データ管理は編集性や共有性に特化したSaaSを活用し、相互にデータ連携をさせていくことで、パフォーマンスを最大化できることが特徴だ。

「AIR-Plate」の修繕範囲確認の画面
Unreal Engineを用いた施設データプラットフォーム「AIR-Plate」

「『AIR-Plate』は、梓総合研究所様で作成したBIMデータを、Unreal Engineベースのエディタに読み込ませて表示させています。これは市庁舎を仮定した仮想の建物モデルですが、このように360度回転させたり、2階や3階部分だけ切り取って3Dで表示でき、さまざまなデータ表示機能を搭載しています」と梁河氏。
AIR-Plateの特長は、軽快な3Dモデルの表示だけでない。データベース機能を司るNotionと連携し、最新の施設や部屋情報、建具などの設備情報を表示できる点である。

「AIR-Plate」の室名検索の画面

開発者の1人である豊田健氏は「例えば、この部屋の色の付いている部分は扉ですが、赤はきちんと施錠がされていることを表しています。青は鍵が開いている状況を指し、誰が見てもこのように色で施設状況が一目瞭然です。施設の情報は、あえてNotion上で一元的に管理するすることで、施設情報のみならず運用情報も可視化することに成功しました。BIMを触らなくても、Notionに情報を追加していくことで、AIR-Plateのエディタ側で常に最新の情報を取得し建物モデルに反映するのが特長です」と説明する。これによって専門的な技術やBIMの知識を持たない施設管理者でも簡単にテキストベースで施設情報をアップデートできるのである。
梁河氏は「いわゆるデータビジュアライゼーションという考え方で、本当の意味でのデータ活用を実現しています。梓総合研究所様の事例は、データをいかに見やすい形にするか、可視化するかに重きを置きました。部屋のボリューム自体はBIM側から取っていますが、それ以上の細かい情報はNotion上に置いてデータを活用しやすい形にしてUnreal Engineで統合し、可視化させているイメージです」。そのほかにも、部屋を色別で表示したり、諸元表や図面のPDFデータも取り出せるため、FMで有効に活用できる仕様だ。さらに、デスクトップ上だけでなくiPadでAIR-Plateを扱えるため、より手軽に利用できる点も嬉しい。これは4月時点の開発状況で、現在はさらに機能も向上ており開発は順調だという。

ホロラボUEテンプレートやビジュアライゼーションなど幅広い展開へ

ホロラボは前述のとおり、エンジニアファーストの企業のため、社内勉強会や社員の自主開発が活発であることも企業風土の1つだが、現在UEチームでは「ホロラボUEテンプレート(以下、HUT)」を自主制作し、社内で試験運用をしている。
「HUT は、BIMを読み込むとVRで使える綺麗なビジュアルを短時間で表示できる社内向けのテンプレートです。名前のとおり、Unreal Engine 5ベースで作られています。Unreal Engineは一定の使用条件の下では無料で使えますし、RevitやArchicadのプロパティ情報をそのままの状態でインポートできるDatasmithという機能を持つゲームエンジンのため実現できました。もちろん点群なども取り込めます」と梁河氏。

ホロラボUEテンプレートの画面

例えば、顧客との打ち合わせなどで、BIMデータをVRや大きな画面で綺麗なビジュアルですぐに見たいという場合に力を発揮するという。エンジニアに依頼すると最短でも3日程要するが、HUTを使えばその場ですぐに綺麗なビジュアルで提案できるのだ。
さらに、マルチプレイ対応で同じモデルを複数人で共有できるほか、DLC機能ではHUT上にライブラリ化することでダウンロード時間なしで、すぐに3Dで表示することもできる。梁河氏は、自身が講師を務める専門学校の授業でも使用し、学生からはBIMデータをすぐに綺麗なVR用データに変換できると好評だと語る。
また、最近ホロラボでは、ビジュアルをメインにした仕事も増えているという。それは、ビジュアライゼーションのプロフェッショナルである森口氏がチームに加わったことが大きい。クオリティの高いCGは、顧客からの評判も非常に高いという。

  • 森口 史章 氏によるUnreal Engineなどを用いたCG
  • 森口 史章 氏によるUnreal Engineなどを用いたCG(内観)

「我々は、ゼネコンや設計事務所の課題をアプリ開発などで解決する業務が多いですが、施主へのプレゼンのために“BIMを綺麗に見せたい”などの要望にもお応えできます。Unreal Engineをさまざまな角度から使用することで、綺麗に見せることも、課題解決の吟味にも使うことできますので、気軽にご相談して欲しいです」と森口氏は幅広い対応への自信を見せる。
そして梁河氏は「現在は、建築業界も転換期を迎えていると思います。建物を作るだけでなく、いろいろな形で建物に携われる時代になりつつあります。我々の強みであるゲームエンジンやAR/MR技術で、少しでも建築業界の方々の悩みや課題を解決したいです」と前向きだ。

CORPORATE PROFILE

会社名 株式会社ホロラボ
設立 2017年
事業内容 mixpace等のライセンス・パッケージ商品の販売やシステムの開発・支援
本社 東京都品川区
代表者 Co-Founder、CEO 中村 薫